私の弟が柱に鉋(かんな)をかけているところです。

あなたの家には鉋はありますか? まあ、日常生活を送る分には無くても大丈夫だけど、ちょっと日曜大工に手を出したりするなら、ひとつ持ってると重宝しますよ。

今ではホームセンターで材木を買うと、ホームセンターにある機械を使って「ワンカットいくら」できれいに切ってくれます。でも、切ったままだと角がささくれて怪我するでしょ? だから角を1ミリくらい削って、これを「面取り」って言うんですけどね、そのときにこの「鉋」があると大活躍します。ヤスリでもできないことはないけど、作業の速さと仕上がりの美しさが全然違いますよ。

私ら大工はこの鉋を使って、この写真みたいな柱を仕上げたりもします。削った面を美しくピカピカに光らせるには、刃の研ぎ方から始まって、刃の調整はもちろん、鉋の持ち方、姿勢、力のかけ方、いろんな技が必要なんです。

慣れない人は鉋を手先だけで何とかしようとするけど、それじゃあ美しく削れませんよ。重心を落として、下っ腹に力を入れて、手に体重を一定に乗せて、そして迷い無く手前に引ききる。これはひたすら練習を重ねて体で覚えるしかないですね。

正しい動作をするとね、美しい鉋くずが出るんですよ。おんなじ幅で、おんなじ薄さで、ずーっと長くつながった鉋くずです。名人の域に達すると、薄すぎて向こうが透けて見えるような鉋くずが出せるようになります。あんまり薄くて美しいもんだから「削り華」なんていう呼び方もあって、薄さを競う全国大会まであるんですよ。

 

さてこの鉋ですがね、電動の「かんな盤」の普及で、私ら大工はずいぶん楽になったもんです。もちろん「ここぞ」っていう大事な所は最後に手作業で仕上げたりもするけど、最近の機械は性能も上がってるから、まあ大抵の所は機械で削ったままで大丈夫になってきてますね。

ただね、そうやって大工が鉋を使う回数が減ったことでね、鉋を使えない大工が増えてるんですよ。「機械に任せて大丈夫なら、べつにいいじゃないか」っていう意見もあるけど、ちょっとそれは短絡的だと思うんです。

例えば、学校の算数や数学の授業では電卓持ち込み禁止ですよね。どんな面倒な計算も、全部時間かけて生徒に筆算させます。あれはね、自分の手を動かして答を出す過程で、その計算の意味っていうか、手ごたえっていうか、うまく言えないけど、そういう事を実感として経験させることが目的なんだそうですよ。そもそも「九九を覚える」ことだって、毎日持ち歩いてるスマホに電卓が入ってるんだから要らないかっていうと、それじゃ悲しすぎますよね。8かける7を答えられない人が作った見積書なんて、信用ならんですよ。

鉋もおんなじです。手で作業をすればね、「この種類の木材の、こういう木目に対して、このくらい削ろうとすれば、こういう感触になる」っていう事例をたくさん経験することになります。木の性質を感覚として覚えるっていうのは、木に働きかけることが仕事である私ら大工にとって、とっても大事なことなんですよ。

(有)大桃工務店 代表取締役 棟梁 大桃実

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