うちの会社の設計室です。右に座ってるのは私の弟です。CADで次の仕事の図面を描いているところです。

そこらじゅうに検討中の図面が積んであって、ゴチャゴチャと散らかってますね。「写真を撮るなら、ちょっと片付けようか」とも思ったんですが、カメラマンが「ありのままを撮りましょう。自然な感じでいいですよ」って言うものでね。

ところで「CAD」って何だか分かりますか?「キャド」って読むんですけどね、「コンピューター支援設計」の頭文字だそうです。簡単に言うと「設計専用のコンピューター」っていうことです。

私が若かったころは、もちろんこんなものはありません。図面を描くのも手作業なら、さまざまな計算も全部手作業でした。だからって「昔ながらの大工は今でもコンピューターなんか使えないんだろう」なんて思ってもらっちゃ困りますよ。家を建てるのに必要なことは何でも勉強して使いこなすのが、本物の大工っていうもんです。

単に図面1枚描くだけなら、手で描いたほうがよっぽど早いです。でもね、お客さんの要望をしっかり聞いて、家全体の設計を「ああでもない、こうでもない」って試行錯誤しながら最適な答を見つけていくには、一見遠回りに思えてもCADできちっと細かい所まで入力するほうが早いんですよ。ただ、このCADの操作を全部覚えるのがなかなか大変でね、それで今CADの操作は全部弟に任せてるんです。

 

私もね、こんなにコンピューターが普及した時代だから、図面を手で描く場面なんてほとんど無くなったのかと思ってたんですよ。ところがね、大学の工学部出身だっていう知り合いが興味深いことを話してくれたんです。

彼の話だと、大学の製図の授業は今でも手描きなんだそうです。卒業して会社に入れば間違いなくCADで設計するという時代なのに、だからこそ大学の授業くらいは手描きじゃなきゃダメだっていうんですよ。

なぜかっていうと、ちゃんとした設計ができるようになるためには、そのものの立体的な姿が本当に頭の中にありありと浮かぶようでなきゃいけなくて、手で図面を描くのはその訓練になるからなんだそうです。それに、CADで描いた図面なら後から簡単に寸法を変えたりもできるけど、手作業の場合は「本当にこの寸法で絶対大丈夫か?」って確信してからじゃないと描き始められないから、設計が慎重になるとも言ってましたっけ。

家というものには、お客さんの命を守る大事な役割があります。だから、単に見栄えがよければいいっていうデザインとは訳が違うわけです。図面を描くだけならどうにでも描けてしまうけど、「その図面で本当にお客さんの命を守れるのか?」っていう見極めのできる人が、本当の意味で「CADを使える人」と呼べるんですよ。

(有)大桃工務店 代表取締役 棟梁 大桃実

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