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三百年前の初代も見ていた風景

うちの会社の玄関前に広がる田園風景です。

会社の前だけでなく、右も左も全部田んぼなんですよ。この写真を撮った時はちょうど田植えの少し後でね、5月の爽やかな風に吹かれて気持ち良かったですよ。

会社はこんな田んぼの真ん中にあるけども、自宅はすぐ隣の「月岡」という集落にあります。歩いて数分の近さです。今から300年以上前に私の先祖がここ月岡で大工を始めましてね、それからずっと大桃一族はこの地で大工という職業を受け継いでるんです。

毎日当たり前のように眺めているこの景色ですが、300年前の初代が生きていた頃とほとんど変わってないはずですよ。

もちろん、この写真に写っている高圧線の鉄塔なんか無かったし、田んぼのあぜ道だって曲がりくねってたでしょう。遠くに見える家々も、私が若かった頃はもっと茶色っぽい昔ながらの家ばっかりでした。

それでもね、山の形は同じだし、家々が集まってる様子も同じ。5月の田植えの頃にはやっぱり爽やかな風が吹いてたでしょう。この同じ風景を、300年前の初代から続く先祖たちもみんな当たり前のように眺めながら、そして当たり前のように大工として生きてきたわけです。
高圧線の鉄塔が建って、田んぼのあぜ道がまっすぐになったように、私ら大工の世界も新しい技術がどんどん入ってきました。道具の進歩もすごいけど、家の性能の進歩もすごいですよ。

中でも、住む人が一番感じる進歩は断熱性能じゃないですかね。少し前までだったら、どんなにお金をかけた御殿みたいな家でも、夏は暑くて冬は寒いのは当たり前でした。それを冷暖房で力づくで何とかしようとすれば、ものすごい光熱費がかかったもんです。

でも、今の新しい家は違いますね。外壁や屋根の内側、それに床下にも高性能の断熱材をしっかり入れて、家じゅうがたった一台のエアコンだけで廊下もトイレも全部快適な温度に保たれるようになってます。

こういう断熱性能の高い家っていうのは、昔ながらの柱や梁が見えるようなデザインではできないんだと思ってる人もいるようだけど、そんなことはないんですよ。私の今の自宅は自分で建てた昔ながらのデザインですけど、けっこう大きい家なのにエアコン一台で一年中快適です。

そうそう、断熱のことでちょっと笑い話みたいなことがあるんで聞いて下さい。

ここ月岡の家々はほとんど私ら大桃一族が建てたものだから、時々お客さんの所に行って話をするんですよ。「そろそろ息子さんも家を建てるころですよね。私らに安心して任せてもらうように言ってもらえませんか?」ってね。そうしたら、「こんな、夏は暑くて冬は寒い家しか建てられない大桃さんには頼みたくない、と息子が言ってる」っていうんです。

いやいや、それは大きな誤解ですよ。私がその家を建てた頃はね、まだ日本中の家が断熱材なんか使ってなかったですよ。だから、その家が夏は暑くて冬は寒いのは、私の技術不足でも知識不足でもありません。今私が建ててる家は、大手ハウスメーカーよりも断熱性能が高いんですからね。
時代の変化や技術の進歩でいろんなことが変わっている建築業界ですけど、私が300年前の初代から受け継いでいる「大工の誇り」だけは決して手放しません。新しいことにどんどん挑戦するのも、すべてはお客さんの幸せを思えばこそです。
(有)大桃工務店 代表取締役 棟梁 大桃実