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遊び心にも熟練の技

会社の応接室の丸テーブルです。私の手作りです。

よく見ないと気が付かないかもしれないですが、写真の真ん中にL字形の模様があるでしょ? でもこれは模様じゃなくて、この形に別の木をはめ込んであるんです。

けっこう大きめのテーブルで、そんなに大きい板は手持ちが無かったんですよ。そこで、数枚の板をつなぎ合わせます。

つなぎ合わせる面をただ接着しただけじゃ強度が弱いし、接着面が少しずつゆるんで角度が出てきたりするとテーブルが平面じゃなくなりますよね。なので、つなぎ合わせる部分の数ヶ所に小さい溝を彫って、その溝にぴったりはまる別の木をはめこんで補強します。

そこで大工の遊び心の出番ですよ。

どうせなら毎日使ってる大工道具をあしらってみようじゃないか、と、「さしがね」の形の補強をしたというわけです。

「さしがね」って知ってますか? 鉄でできたL字形の定規です。「かねじゃく」ともいいます。安いのはホームセンターでも売ってるから、日曜大工用に持ってる人もいるでしょうね。

私ら大工が使うのは、大工用の最高級品です。なにしろこれで家の大事な寸法を全部決めるんだから、とにかく精度が大事です。それに、目盛りが何種類も振ってあって、これ一本あれば、角材の対角線の長さを求めるとか、丸材の円周の長さを求めるとかを、電卓を使わなくたってできる優れものなんですよ。
こんな形に正確に溝を掘るのも技術が要るし、その溝にぴったりはまるL字形の木を削り出すのも技術が要ります。大工っていうと、柱とか梁とか、大きい材木を加工するだけみたいなイメージがあるかもしれないけど、細かいことも得意じゃなきゃね。こういう細かいことも得意な大工の手にかかれば、地震でもびくともしない丈夫な家が建つってもんですよ。

もちろん、建った家に住むお客さんはそんな細かいことは知らないままでしょう。それでいいんです。家族の命を守れる丈夫な家に住む安心感。その安心をこの鍛え上げた熟練の技で支えてるんだ、と密かな誇りを持って黙々と仕事に打ち込む。大工ってのは、そうありたいもんですね。
(有)大桃工務店 代表取締役 棟梁 大桃実